早くも負けを確信して、またうさぎに視線を戻す。勝手に始めて勝手に終わらせた勝負。そんなことは知らない先輩は、「あーあ、逸らされちゃった」と楽しげに言った。
「だって……!」
「あ、そういえば今日は浴衣着るの?」
「え、あ、着ます……文化祭の時とは違うやつ」
「楽しみにしてる」
花火は、ここから歩いて行ける土手で見ようって話になった。出店もあるし、きっと混雑しているだろう。
浴衣に関しては、あーちゃんに『一緒に着てほしい!』とお願いされて着ることになった。好きなひととの花火だもの、そりゃ可愛くして行きたいよね。
誘われた時は戸惑ったけれど、今では浴衣も出店も花火もすごく楽しみだ。宿題もこの2時間で結構進んだので、参加してよかったなんてことをもう思っている。
「そろそろ戻ってくるかな」
「ですね」
あーちゃんたちが出ていって数分。コンビニはそう遠くない。寄り道さえしていなければ、きっともうすぐ戻ってくるだろう。
そう思ったら急にそわそわしてきた。いや、実はあーちゃんたちがいなくなってから、それは少し始まっていた。
なぜなら今日、先輩に話したいことがあるからだ。ふたりの時に話そうと、朝から決めていたことだ。
うさぎを見つめている場合ではない、と先輩の方へ体を向き直す。話すなら今だ、今しか無い。
「……先輩」
「ん?」
「真面目なお話、してもいい?」
「うん、いいよ」
先輩の顔がやさしくなったのがわかった。先輩の目を、ちゃんと見る。
「……先輩のこと、会わない間も考えてます、いっぱい」
「ん、ありがとう」
「でも……ゴールというか、何を答えにするべきなのか、わからなくなっていまして……」
話したいこと。それは、今の時点での私の気持ちだ。


