「びっくりしたー……」

「あ、すいません」



ひおと別れて教室に戻ろうと歩いていれば、制服に着替えた星谷くんに話しかけられた。

まさか2回目があると思わず、しかもあんなことをした後だったから完全に気が抜けていて、つい驚いてしまった。



「ひおのことだよね? うん、大丈夫だったよ」

「そうですか、よかった」



きっと気になって、俺のことを待っていたのだろう。


決して目立つようなタイプじゃないけれど、目を惹かれる。そんな雰囲気があると思う。ちゃんと話すのは、図書室で会った時以来だ。バレンタインの直後で、感じ悪く接してしまったことを覚えている。

その時も実は思っていたのだけれど、また今日会って、改めて感じた。見た目とか話した感じで、ひおが星谷くんのことを好きだったの、わかるわ、なんて。なんかひおが好きになりそうだな、って。


羨ましいと思う。ひおにとって、彼がもう過去になっていても。



「ひおのこと、気になるの?」

「気になりますよ」

「それはどういう?」

「八代は、特別な友達なので」

「あぁ……」

「なんて。ひどいことしたのに、きもいですよね俺」



星谷くんにとって、きっとずっと、ひおは特別な存在で。ひおにとってもまた、そうなのだろうなって。



「どうしてさっき、俺のところに来たの?」

「え?」

「べつに星谷くんがひおを助けてあげたってよかったわけじゃん。それなのにどうして俺を呼びに来たの?」



そう思ったらやっぱり悔しくて、意地悪なことを聞いた。うわ、ださ。絶対ひおには見られたくない。



「……先輩相手なら、俺より藤原先輩の方がいいかなって」

「なるほど」

「それに……先輩にお任せしましたから、八代のこと」

「……」

「八代には、幸せになってほしいので」



「では」と、まるで普通のことみたいにそれだけ言い残して、星谷くんは去っていった。そんな彼の背中を見て思う。

今のやり取りでわかった。彼にとってひおは、きちんと大切だったのだと。

大切だったからこそ、その距離から、今自分にできることをしているのだと。



「……くそださ、俺」



見た目とか雰囲気だけじゃない。ひおがどうして星谷くんのことが好きだったのか、わかった気がした。