タイミングってやつは、突然やって来るらしい。






『……あの、すいません。八代、女の先輩にどっか連れていかれてましたけど、大丈夫ですか?』

『え?』



体育祭が終わって、ひおが校舎裏にいるのを教えてくれたのは、星谷くんだった。

偶然か、それとも目で追っていたのか。自分で行かずにそれを俺に伝えたのは、彼なりのひおへの気遣いなのか。

まぁ、そんなのこの瞬間はどうでもよくて。すぐに校舎裏まで行けば、本当にいた。結局ひおをそこから連れ出せて、今までずっと言えなかったことを伝えられたのだから、俺は星谷くんに感謝でもするべきなのだろうか。




本当は()う予定なんてなかったけれど、さすがにそうするしかないのだと、あの状況に置かれてすぐに悟った。

こころの準備はもちろんできていなかった。だけど思ったよりも冷静に穏やかに伝えられたのは、いつかはこの時が来るのだという覚悟をいつもどこかでしていたからかもしれない。


そもそも、借り物競争に出ることになった時点で、この未来は決まっていたのだと思う。

元々出る予定ではなかった。だけどクラスメイトが体調不良で出られなくなって、たまたま近くにいた俺に声がかかった。最後の体育祭だし、運動は嫌いじゃないし、何も考えずにOKした。

知っていた。今年の借り物競争には、そういうお題が紛れていること。でもまさか自分が引くなんて思ってなかったから、普通にびっくりした。


紙を開いて悩んだ。べつにあんなの、適当でよかったと思う。例えば仁を連れていったって間違いではないし、OKが出ないことはなかっただろう。だけど、ひおじゃなきゃって、そう思った。


そのせいでひおに怖い思いをさせてしまったことは、自分の甘さだったと悔やんだけれど。気持ちを伝えたことに、後悔は少しもない。







──「大丈夫でしたか?」