──「やっほー、愛未ちゃん」
「せんぱーいっ、こんにちは〜」
それからすぐ、2年生の教室のある階に来た。あーちゃんはドキドキしないのか、普通にドアのところから先輩を呼んでいた。さすがである。
「あれ、お友達?」
「あ、はいっ! 同じクラスの陽織ですっ」
「ど、どーもです……」
一方の私はというと、放課後でひとが少ないとはいえ、初めて先輩たちの階に足を踏み入れたことで予想以上に緊張している。仁先輩がにっこり挨拶をしてくれたのだけれど、上手く笑えていたかわからない。
だけど仁先輩の視線があーちゃんに移って、ようやく顔をきちんと見れるようになった。仁先輩は黒髪マッシュで片耳にだけピアスをしていて、なんだかこう、ものすごく色気がある。
なんて、絶対に本人には言わないけど。
というか、私はいつ退散するべきなのだろうか。目のやり場に困って視線を彷徨わせていると、教室の中にミルクティー色が見えて、自然と目の動きが止まった。
由真先輩、だ。
先輩は私には気がついておらず、席に座って誰かと話している。その相手は、先輩よりも明るい髪色をした、ちょっと派手な女の先輩ふたり。
たぶんだけど、見つからない方がいい気がする。だから気がつかれないうちにあーちゃんに声をかけてここから去ろうと思ったところで、タイミング悪く仁先輩があーちゃんとの会話をやめて教室の中へ顔を覗かせた。
それから「俺帰るわー、じゃーねー」と、由真先輩たちに向かってそんなことを言うものだから、当然彼らはこっちを向くわけで。
逃げ遅れた私は当然、由真先輩の視界に入ってしまうわけで。
「じゃーねー」と女の先輩たちが仁先輩に向かってそう言う中で、先輩の目が一瞬だけまあるくなった。
あーあ……完全に見つかっちゃった。


