正直、パニックである。
だって由真先輩が、私のことを?
そんなのすんなりと信じられるわけないのだけれど、あまりにもストレートなそれと、目の前の先輩を見れば、きっと嘘でも冗談でもないのだなと思ってしまう。
「はは、びっくりしてる」
「あ、当たり前じゃないですか……!」
「なんでよ」
「だ、だ、だって! 先輩が私のこと、」
「うん、好き」
何度も瞬きをした。だけど先輩の目は逸れなかった。
ドキドキ、心臓がうるさい。うるさいのに、嫌じゃない。
『嘘じゃないよ。俺だって片思いするよ』
『俺も、ほぼ100パーセント叶わない恋かな』
ようやく状況を飲み込んで、そうすれば前に先輩とした会話を思い出して、色んな思いが頭の中を駆け巡る。あれもこれも全部、私のことだったのだ。
今まで先輩はどんな気持ちで、私の片思いの話を隣で聞いてくれていたのだろう、とか。どういう思いで、私にたくさんやさしい言葉をかけて励ましてくれていたのだろう、とか。
先輩みたいなひとが、どうして私のことなんか、とか。
なんの苦しいなのかはわからないけれど、ただただ胸がぎゅっとなった。真ん中に落ちてきた先輩の言葉から、じわりじわりと熱が広がっていく。
驚きも嬉しさもそれ以外も、ぐちゃりと混ざり合って、名前のわからない気持ちができあがる。
まずは何を伝えるべきなのか。
いちばん正しい言葉がわからない。
「…………え、っと……その…………」
「困ってる?」
「そ、そいうわけじゃなくて」
「ごめんね、ひお」
「ぜ、全然、先輩が謝ることなんて、」
「あ、さっき笠原たちが言ってたのも本当の話」
「さっき……」
先輩がポケットから何かを取り出した。「これ」と言って見せてくれたのは、小さな正方形の紙。
その真ん中には〝好きなひと〟と書かれていた。
「もっとちゃんと言いたかったんだけどね」
苦しいのは、どうしてか。涙が出そうなのは、なんでなのか。
「……ありがとう、ございます」
いつもこころを救ってくれた先輩に、私は何を返せるのだろう。


