借り物競争で繋がれていた時とは全然違う。さすがに心臓の動きが速い。やっぱり先輩の方は見れなくて、ずっと足元に視線を落としながら歩いた。
先輩が立ち止まったのは、小体育館裏口の前。「座ろっか」と先輩は私から手を離して、扉へ続くちょっとした階段の1段目に腰を下ろした。
だから私も先輩の隣に座って、今度は膝のてっぺんを見つめる。何か喋らなきゃ、なんて先輩に対して思うのは初めてだ。
「ごめんね、ひお」
「、え」
「嫌な思いさせて」
だけど先に口を開いたのは先輩の方からで。まずはそれに少し安心した。でも先輩が謝る必要なんてない。先輩が来てくれて助かったのだから。
「全然……! 私は大丈夫です、けど……」
先輩はどうなのだろう。今隣で、一体何を考えているのだろう。
さっきの話は本当ですか、って。
聞いても、いいのかな。
「……先輩」
「うん」
「その……さっきのは……えっと……」
「さっきのって?」
もしかして緊張しているのは私だけなのか。先輩はこんな状況でも、少しも焦った素振りを見せない。それどころか、ちょっと楽しんでいるようにも思える。だって絶対わかっているくせに、わざとそう聞いてきているもの。
「さっきの……っていうのは、つまり……」
「ん?」
「〜〜〜っ」
「うそうそ、ごめんって」
「意地悪しないでください……!」
「ごめんごめん」と先輩が笑う。なんだかいつもの空気に戻った気がする。
でもきっとそれは、先輩のやさしさだ。
「ひお」
「、はい」
先輩だけの呼び方で、自分の名前が紡がれる。右肩が熱い。聞こうとしたことは、喉の奥へ引っ込んでしまって。
「俺ね、ひおのこと好きだよ」
「っ、」
「ずっと、ひおに片思いしてる」
だけど代わりに、先輩が答えをくれた。もちろん、頭は追いついていない。
それでも顔を上げて、ようやく隣を見る。そこには、ただ真っ直ぐに私を見つめる先輩の綺麗な顔があった。


