願うなら、きみが






振り向くと、そこには由真先輩が。なんでだろう。だって、たまたまここを通ったとは思えない。

だけど先輩の顔を見て、一気に安心した。もう大丈夫だって、一瞬でそう思えてしまう。どうしてここにいるのかなんて、理由はなんでもいい。

よかった、先輩が見つけてくれて。



「ゆ、由真……」

笠原(かさはら)木内(きうち)、この子と知り合いなの?」

「いや……」

「じゃあ何してんの」



笠原先輩と木内先輩っていうらしい。ふたりの声が、さっきよりもほんの少し高くなる。それに対して由真先輩の口調は、いつもより全然柔らかくない。



「聞いてただけだよ」

「何を?」

「……由真と、付き合ってんのか」

「は、なんでそんなことこの子に聞くの?」

「だって……」

「なに」



問い詰められた笠原先輩がこの先何を言うのかは、ある程度想像できていた。不本意ではあるけれど、これで由真先輩が私に出した宿題の答えがわかるかもしれないと、呑気にそう思っていた。



「実行委員が言ってたの聞いたから。由真が借り物競争で引いた紙……〝好きなひと〟だったって……」



──思っていた、のだけれど。

「え」と思わず声が出る。意味はわかるのに、わからないみたいな。ぐるぐると笠原先輩の言葉が頭の中を回る。

私は今、とんでもないことを聞いてしまったのかもしれない。



「ねぇ、どうなの由真」



〝好きなひと〟

1度頭の中でその文字をなぞれば、顔が一瞬で熱くなった。

え、えぇ……? 好きって、あの好き?

先輩が私を? そんなことありえる? ライクの方ならあるか、なんて。

そもそも、それが本当のことなのかどうかもまだわからない。事実かどうかは、先輩とあの実行委員のひとしか知らない。



「笠原さ、なんでそれ俺より先に言うかな」



だけど、そんなことを聞ける空気ではなくて。



「っ、ほ、ほんとなの? 由真、」

「それ、答える必要ある?」

「それは……っ」

「じゃあ返してもらうね」



わからないまま、先輩の手が私の手首を掴んで、引き寄せた。だけど私は先輩の顔を見れなくて、ずっとスニーカーの先端を見つめる。



「次こんなことしたら、本気で怒るよ」



それから今まで聞いた中でいちばん低い声でそう言った先輩は、私の手首を掴んだまま歩き出した。