願うなら、きみが





私の返事が気に食わないのか、今度はもう片方の先輩がながーくため息を吐く。



「だったらなんなわけ?」

「えっと……普通に先輩後輩……です……」

「はぁ? 普通に?」



あまり刺激しないように慎重に答えたつもりが、どうやらだめだったようで。事実を伝えただけなのに、なぜか睨まれる。怖い。どうすればここから脱出できるのかを考えてみても、先輩ふたりを目の前にしては全く思いつかない。

そもそも先輩たちは、何をそんなに怒っていらっしゃるのだろう。何かしたっけ、と頭をフル回転させる。


あぁ、ひとつだけ思い当たるものがあるとすれば──



「なら教えなさいよ」

「え……」

「さっきの。あの紙になんて書いてあったのか」



ほら、やっぱり。

この先輩たちは、私が借り物競争で由真先輩に借りられたことが気に食わないのだ。

だけどたぶん、私にはその怒りは収められないと思う。だってそれ、私もわからないから。



「ねぇ、聞いてんの?」

「あ……はい」

「じゃあなんだったわけ?」

「えーっと…………わからない、です」

「は?」

「その……教えてくれなくて……」



ため息も舌打ちも、怖い。私にぶつけられても困るけれど、きっと私しか捌け口が無いのだろう。

でも、これしか答えられないのだから仕方ない。私も知りたいから、どうか先輩に聞いてほしい。

あれだな、八田くんの言っていた意味がわかった。由真先輩ってほんとすごいんだ。もっとちゃんと警戒しておくべきだったな、と今更意味の無い反省をする。



「知らないってなんなの」

「もー由真に聞くしかなくね?」



そうしてください、とこころから願う。このまま気がつかれないようにフェードアウトしようかな、と考えていれば、急に目の前の顔が驚いたような表情に変わった。



「何してんの?」



なんだろう、と思うのと同時に、その声は私の背後から聞こえてきた。