どうしてか、先輩が目の前まで来て。私の目線の高さまで屈んで、真っ直ぐに見つめてくる。
「えっ、と」
「これにひおのこと書いてあったから、来てほしいんだけど」
「えっ……私、ですか?」
「そう、私です」
「えぇ……!」
「だから来て」
つまり、先輩が持つ紙に書かれた何かに、私が当てはまるということらしい。でも全校生徒が何百人もいる中で、果たして私でいいのだろうか。
「あの、もっと他にいそうですけど……! ほんとに私で大丈夫ですか……!?」
「うん。これ、ひおじゃないとだめなやつ」
「お願い」と、先輩が手を差し出してきた。だったらもう、その手を取るしかない。それにこれは競争だ。早く行かないと、先輩がビリになってしまう。
「わ、わかりましたっ」
「頑張れ〜っ」とあーちゃんに背中を押されて、席を立つ。
ゴールに向かう途中、あちこちから視線を感じるのだけれど、先輩が手を引いてくれるから、走るしかなかった。
無事にゴールに着いて、先輩が実行委員に紙を見せる。するとどうしてか、委員のひとは驚いたような顔で私たちを交互に見た。もしかして失敗なのかと思ったけれど、大きい丸のジェスチャーをしてくれたので、どうやら大丈夫だったらしい。
7の書かれた旗が立つ最後尾に、ふたりで座る。
「ビリは免れましたね」
「ね、ギリギリ。ありがとひお」
「いえいえ。ところでそれ、なんて書いてあったんですか?」
当たり前に気になる。だって先輩悩んでいたし。でも私じゃないとだめとも言っていたし。
早く知りたい。わくわくした気持ちで先輩を見つめる。
「ね、なんだろね」
「えっ、教えてくれないんですか」
「逆になんだと思う?」
だけどどうやら、ただでは教えてくれないらしい。先輩はジャージのポケットに紙をしまってしまった。


