周りが騒がしくなってきたので、スマホのカメラを起動させる。そうしているうちに騎馬が組まれていき、すぐに競技が始まった。
あっという間の3分間、結果は見事白組の勝利に終わった。
先輩の騎馬は最後まで残って、上に乗っているひとは帽子をいくつも持っていた。すごい動き回っていたし、速かったし、きっと下の先輩は疲れているはずなのに全然そう見えない。
先輩って結構体力あるなぁ、とか、細いのに実はマッチョなのかなぁ、とか。
そんなことを思いながらカメラロールを開く。写真を撮ることよりも生身の先輩に目がいってしまって、実は3枚しか撮れていない。次先輩が出るやつはもっと撮って送ってあげなきゃ。最後の体育祭だもの。
「由真先輩、スポーツもできんのえぐいね」
「ね、すごかったね」
「そりゃモテるわ〜……って、やば! 私たちも行かなきゃだ」
「わ、なんか緊張してきた」
「大丈夫だってぇ〜八田くんと練習したんでしょ〜?」
「そうだけどさ」
「頑張ろ頑張ろ〜っ」
騎馬戦が終わって、そろそろ自分たちの学年種目の番が近づいてきた。集合場所へ行けば、すでに八田くんの姿が。「じゃーねー」とあーちゃんが自分の位置へ移動してしまったので、私は八田くんの隣へ向かう。
「どう? コンディションは」
「大丈夫……だと思いたい! 頑張る!」
「ま、気楽に。練習通りやれば大丈夫だよ」
「もしビリになっても八田くん逆転お願いします」
「うん、任せて」
八田くんのそれは大変心強い。だって彼、足が超速いので。
「頑張ろう!」
「うん……あ」
何かに気がついたみたいに、八田くんが私の向こう側へ視線をやった。だからつられて私もそっちを振り返れば、その先では騎馬戦終わりの由真先輩がこちらを見ていた。
目が合うと、先輩がひらひらと手を振ってきた。だから〝お疲れさまでした〟と口パクで伝える。すると〝ありがとう、頑張れ〟と同じように返ってきたので、たくさん頷いておいた。
だけどそれ以上この会話が続くことはなく、すぐに先輩は女の先輩たちに囲まれてしまった。彼女たちの視線がこちらへ向かないよう、すぐに逸らす。
そして次にそっちを見た時、先輩はもういなかった。


