もし私があーちゃんみたいに積極的だったなら。この進展の仕様がない恋も、ちょっとぐらいは進んだりするのだろうか。


なんてぼーっと考えていれば、シュッと音と共に甘い香りが目の前から漂った。見ると、あーちゃんが手首に香水を吹きかけている。



「あれ、それいつもと違う?」

「ピンポーン! わかる? やっぱりわかる!?」

「うん。いい匂い。この後どっか行くの?」

「ふふん。てことで陽織、お願いがあるんだけどっ」

「え、お願い?」

「今から2年生の教室ついてきてほしい!」

「な、なんで」

「今日ね、(じん)先輩と帰る約束してるの〜っ」



仁先輩というのは、今あーちゃんが密かに、いや、がっつりと好意を向けている2年生の先輩のことで。夏休みが明けてすぐにロックオンしていた気がする。


連絡先をゲットしたと聞いた時もびっくりしたけれど、もう一緒に帰る仲になっているなんて。

さすがあーちゃん、距離を縮めるのが早い。しかも先輩相手に。私には絶対に無理だ。



「すごいなぁ、あーちゃんは」

「すごい? じゃあお願い〜っ!」



大きなきゅるんとした瞳をこちらに向けられれば、断れるはずがない。もちろん、この後予定もないので断わりはしないけれど。

私が男だったら、やっぱりころんと落ちてしまうと思う。



「うん、ついてくよ」

「えーんありがと! あ、もしかしたら由真先輩もいるかもね?」



あーちゃんが言うように、仁先輩は由真先輩と同じクラスだ。しかもふたりは友達同士。まさか由真先輩の友達を好きになるなんて、最初に聞いた時はちょっぴり驚いた。



「ね、どうだろ」

「いたら一緒に帰れば?」

「先輩とはそういうのじゃないよ」



簡単にそう言うけれど、先輩と一緒に帰るのは決まってあの公園に行く時だけであって、それ以外の日は例え上がり時間が被ったとしても別々に帰っている。


バイト先でもそうなのに、学校から一緒に帰るなんてことは想像できない。というかそんなことがあれば、私は女の先輩たちから睨まれてしまう気がする。