「それに、先輩からアプローチされて落ちない女の子はいないと思います」

「それは言い過ぎ」

「そんなことないですよ! 先輩はもっと自分を高く評価していいと思います」



それは紛れもなく本心だった。本当にそう思っていた。好きなひとと上手くいってほしい、その気持ちからの言葉だった。



「じゃあさ、聞いてもいい?」

「はいっ」

「ひおにアプローチしたら、ひおは俺に落ちてくれるの?」



だから先輩からそんな言葉が飛んでくるとは思わず、その意味を飲み込むのに時間を要した。


ひお()にアプローチ? 落ちてくれる?


なんて心臓に悪い例えばの話だ。でもそうか、私も女の子だ。



「ふふ、そうですね、落ちちゃうかもです。まぁ、そんなことありえないですけど」



冗談ぽく言ったつもりだった。きっといつもの先輩なら、ここで〝なんてね〟みたいなことを言ってくれるはずだ。なのにどうしてか今日はそれはなくて、代わりに先輩の瞳が逸れることなく私を見つめるから、だんだんとどんな顔をしていいのかわからなくなる。


あれれ……? なんだろう、この感じは。


もちろん冗談なのはわかっている。でも、冗談を言っている顔をしてくれないから困った。



「え……っと、先輩?」

「ん?」

「あの、」

「あ、そろそろ時間やばい」

「、え」

「着替えなきゃ。今日も頑張ろうね」

「あ、はい……」



しかも先輩は何事も無かったみたいに立ち上がって、カーテンの向こうへ。まるで私だけがここに取り残された気分だ。


……今のはあれだよね、冗談だよね、普通に。

先輩に改めて確認する程のことでもない。そう思ってその後はバイトに専念しようとしたのだけれど、あまり集中できなくて。


恥ずかしいことに、私だけがただの冗談に胸をざわつかせていた。