「八代さん」と名前を呼ばれて、今度はちゃんとそちらを向く。そうすれば無言でじーっと見つめられた。



「な、なんでしょう……」

「明らかに〝何かありました〟感出てたけど」

「え……」



やっぱり、バレるよね。それぐらいぎこちなかったということだ。自然に振る舞えるようになるまでには、もう少し時間がかかるのかもしれない。



「なに、元彼?」

「違う違う、そういうんじゃ……」

「もしかして好きな男?」

「……」

「図星?」

「ち、違うよ……! 元……好きだったひと……」

「あー、つまり振られたのね」

「……結構つっこんでくるね?」

「え、もしかして当たっちゃった? ごめん」

「いいけどさぁ」



ほぼ毎日顔を見ていたのが、そうじゃなくなって。私にとっては久しぶりだったので、確かに緊張感的なものはあったし、ちょっぴり動揺もした。

だけど、たぶん、それだけだったと思う。

構えていなかったからドキリとしただけで、恋愛のドキドキではない。好きだなぁって気持ちは、きっともうほとんど溶けてなくなってしまった。

それはたぶん、星谷くんがちゃんと本当の気持ちを伝えてくれたからで。私がちゃんと気持ちに区切りをつけようと向き合ったからで。


形には見えなくても、きちんと前に進めている。そのことがほんの少し寂しくもあり、でも嬉しくもあった。



「八代さん、ああいう男が好きなんだ」

「ああいうっていうか……彼だから好きになったんだよ」

「なんだ、結構吹っ切れてる感じじゃん」

「うん、もう終わったことだからね」

「ふーん」

「はい、おしまい! 早く練習しよ!」



照れ臭くなって、八田くんの手からペットボトルを奪う。今はとにかく、体育祭を無事に迎えられるように頑張る、これが目標だ。