「ご、ごめん……! そんな感じだとは思ってなくて……完全に私の勘違いで……」

「いや、そうさせたの俺だし。八代さん悪くないよ」



本当に勘違いだったみたいだ。だって今も八田くんは全然不機嫌そうじゃないもの。



「その……考えてたっていうのは……」

「どうしたらやりやすいかな、とか? でも説明下手だから、どうやって言葉にすればいいか考えてて」

「わ……ほんとごめん。てっきり私ができなすぎて不機嫌なのかと……」

「いや、俺がごめん」



私の中の八田くん情報を早急に更新しなければ。

考えごとをしている時は、顔が怖くなる。べつに怒っているわけではない。そして意外と世話好きのいいひと。


よし、これでもう誤解しないぞ。



「……つまり、やさしいんだね、八田くんって」

「え。こんなんでやさしいって、八代さんすぐひとに騙されそう」

「えー? そんなことないよ?」

「ならいいけど」

「じゃあ……改めて今後もよろしくお願いしま……」



〝す〟まで言う前に、視界に八田くんのじゃない黒髪が入った。そこで私はフリーズしてしまう。今日体育の授業で走った時よりも、心臓がドクンと大きく鳴った。

たった今まで話をしていたのに、「八代さん?」と私の名前を呼ぶ八田くんの声が、やけに遠く感じて。だけどそれに返事をする余裕など無かった。


目が合って、そしたら向こうの瞳がちょっとだけ丸くなって。それからこちらへ近づいてきたので、覚悟を決めた。



「ひ、久しぶり……星谷くん」

「久しぶり」



2年生になって、初めて言葉を交わす。クラスが離れていたって、会わないわけではない。ちょっと油断していたせいで、自分が今上手く笑えているのかわからなかった。



「あ……元気?」

「うん、元気。八代は?」

「う、うんっ……元気……!」

「なんかしてたの?」

「えっと、体育祭の練習を」

「そっか。頑張って」



「じゃあまた」と、立ち去っていく星谷くんの背中を見つめる。そして思う。


私はちゃんと前に進めている。