「だってきっと上手くできないし……」
「だから今練習してる」
「いや、そこまでして八田くんの時間使うわけには……」
「こっちから誘ったから」
「でもこれ以上は……」
「なに、やりたくないだけ?」
「そ、そういうわけじゃ……」
「じゃあ代わる必要なくない?」
うう、しぶとい。どうしてすんなりいかないのだ。こうしている間も不機嫌そうな顔は変わらないし、このままだと嫌な気持ちで練習をしなければならない。
これはもう、最終手段に出るしか……。
「…………だって」
「なに」
「…………八田くん、めちゃくちゃ嫌そうな顔してるんだもん」
「……」
「そんな怒ってるみたいな顔されたら、申し訳ないけど私もやりたくなくなる……というか……」
言ってすぐ、顔を逸らした。あーあ、言ってしまった。これできっと完全に嫌われた。でも、こうするしかなかったよね? 仕方ないよね?
「……」
「……」
沈黙がなんとも怖すぎる。返事が返ってこないので、恐る恐る様子を窺う。すると八田くんは俯いて、自分の頭をわしゃわしゃとし始めた。やばい、やっぱり怒ってるよね……。
だけど彼が再び顔を上げた時には、眉間の皺が綺麗に無くなっていたから、思わず首を傾げた。
……あれれ……なんでだ?
「……あの、八田くん、」
「あー……悪い。嫌な顔してるんじゃなくて、考えてただけ」
え……?
「癖なんだわ。よく言われる。でも全然怒ってないし嫌とも思ってない」
あれれ……?
さっきまで感じていたもやもやが、どこかへ姿を消していく。つまり、不機嫌だと思っていたあれやこれは、全部違っていた……ってこと?
「まぁ、普通に考えたら余計な世話すぎたわ。べつに八代さんに頼まれたわけでもないのに」
「いや、えっと、」
「なんかしゃしゃってごめん。でも、勿体ないなって思ったから。八代さん、足遅いわけじゃないし」
そして全部、私のためだったようで。
あれ……そうするとなんだ? もしかして八田くんって、すごくいいひとなのでは?


