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「5分休憩して再開ねー!」



雲ひとつない空の下、現在体育の授業中。学年種目であるクラスリレーのバトンパスの練習をしている。

体育祭まではずっと種目の練習だ。つまり、この期間で少しでも役に立てるように努力しなくてはならない。


休憩の時間を与えられてその場に座りこもうとしたところで、「ねぇ」と後ろから話しかけられた。


座らずに振り向けば、その声の主は八田(はった)くんだった。クラス替えで初めましてをした彼とは教室の席が隣同士なのに加えて、偶然にもリレーで私から彼にバトンを渡すことになっている。なので今、クラスの男子の中ではいちばん関わりのあるひとだ。



「な、なんでしょう……!」

「さっきのが限界?」

「う……ん……」



話しかけられた時点で察していた。だってずっと眉間に皺が寄っていて不機嫌そうだったもの。それは他でもない私のせいで、さっきの練習中1度も上手くバトンを渡せなかったのだ。

だからたぶん、不満が溜まっているのだろう。



「合図出すのが早すぎる」

「タイミングが難しくて……」

「そんな難しい?」

「う……そういうセンス無いから……ごめん……」



完全に私のせいなので、謝るしかない。八田くんの眉間にはまだ皺が寄っている。私のこの悩みなんて理解できない、っていう顔。

それも無理ない。だって八田くんは足がものすごく速くて、リレーの選手候補にも入っていたのだから。


順番、誰か代わってくれないかな。八田くんもその方がいいだろうし……と、目を細めてむっとしている八田くんから目を逸らす。

だけどすぐにまた「ねぇ」と呼ばれて、視線は再び八田くんの瞳へ。



「あの、ごめ、」

「放課後空いてる?」

「え……」



予想外の言葉に、つい目が大きく見開く。なんだなんだ、それは一体どういう……。



「空いてないの?」

「っ、あ、空いてます……」

「そ。じゃあ空けといて」



咄嗟に答えてしまったけれど、これは正解だったのだろうか。せめてどうして、と聞こうとしたところで休憩は終わってしまって。どういう意味なのかは聞けなかった。