「先輩今日は何しましたか」
理由はわからない。でも、わざわざ聞くこともできない。だったら楽しい話をしよう、と。先輩が最近バイト先へ行く道でよく聞いてくれることを、今日は私から聞いてみた。
「体育祭の種目決め」
「あ、私のクラスもです!」
私たちの高校は、5月の終わりに体育祭がある。なので新学期が始まって早々、種目決めをして練習をしなければならない。
初めましてのひとが多い中、早くもクラスの団結力が試されるというわけだ。
「えー、ひおは何出るの?」
「えっと、棒引きです」
「それだけ?」
「はい……あとは学年種目です。運動得意じゃないので……」
「そうなの? じゃあばっちり見ておくね」
「だ、だめです、恥ずかしい」
「頑張ってね。最後の体育祭、勝たせてよ」
先輩は3年3組で、同じく3組の私とは一緒の白組だ。それに先輩は3年生。つまり、高校生活最後の体育祭だ。
もちろん私だけの頑張りで優勝できるわけはない。だけど最後の体育祭、先輩にとって素敵なものになるといいなぁと思う。頑張らなくては。
「任せてください……! あ、先輩は何出るんですか!」
「んー? 騎馬戦とリレー」
「え、すごい! 騎馬戦は上? 先輩足速いんですね」
「騎馬戦は下。ね、速いのかも」
「写真撮っておきます」
「楽しみにしてる」
それからしばらく体育祭の話をして、バイト先に到着した。着替える前、先輩はいつもみたいに「あげる」とチョコレートをくれた。
「ありがとうございます」
「今日も頑張ろ」
「はいっ」
チョコレートの包み紙を剥がしながら、ふと思う。
最後の体育祭ということは、先輩は来年にはもういなくて。つまり、こうやって一緒にバイトができる時間も、きっと残り少ないのだと。
そう考えたら、胸の端っこの方がちくりとした気がして。慌ててチョコレートを口に含んで、痛みを和らげた。


