春休みが始まるまでの約1ヶ月。星谷くんとは挨拶を交わす程度で、もちろん図書室にも行かなかった。

それでも特に気まずくもなく、高校1年生の最後はとても穏やかだった。最後はふたりで、『お世話になりました』と、そんな挨拶を交わして別れた。



好きだった。ものすごく、好きだった。

だからこそ彼の選んだ答えに涙した。その矢印は一生こちらには向かないのだと悟った。


だったら、私のできることはひとつだけ。


どうか、誰かと幸せに。そう願える日が、遠くない未来にきちんと来ますように、と。その日を待つことだけだ。



そんな終業式の日があって、それから春休みを経て、もう新学期。クラス替えをして早くも1週間が経つ。完全には難しいかもしれないけれど、これからは気持ちを切り替えて過ごしていくつもりだ。



「あ、来たよ」



なんて、頭の中で振り返っていると、あーちゃんがドアの方を見ながら楽しそうにそう言った。

来たのが誰なのかは、そちらを見なくても明白だ。



「ふふん、陽織のこと心配なんだろうねぇ」

「だとしたら心配しすぎだよ」

「まぁ、それだけじゃないかもよ?」

「え?」

「ほら、早く行きな! 女子が騒ぎ始めちゃう!」

「う、うん。じゃあまた明日ね」

「また明日〜!」



ニコニコ笑顔のあーちゃんに背を向けて、教室のドアへ。その間にもチラチラ、主に女子からの視線を感じた。


「お疲れさまです」と、ドアに寄りかかる人物に声をかければ、「お疲れさま」と同じ言葉が返ってくる。

背中に向けられた視線がむず痒い。だから目の前のひとをなるべく教室から遠ざけるために、グイグイと押してみた。



「ちょっと。なになに、ひお」

「先輩……! 目立ちます! 早く行きますよ!」



そう、女子の視線を集めてしまう人物。それは、由真先輩である。