願うなら、きみが






八代の目を見る。そうすれば自然とまた、「ごめん」がこぼれた。

違う。いや、そうなんだけれど、違くて。


もっともっと、伝えなければならないことがたくさんあるのに。いざ八代を目の前にすると、ひと言目がスっと出てこなくて。

この状況にまた〝ごめん〟と言いそうになる。だけどその前に、「あのさ」と八代の方が先に切り出してくれた。



「なんとなくもうわかってるから……ほんとは聞かないでもいいんだけど。でもやっぱり、最後は星谷くんの口からちゃんと聞かせてほしくて」

「……うん」



最後の最後まで、なんて情けない。

だけどこれで、本当の覚悟ができた。もうこれ以上八代を傷つけないために、自分の口から全てを話す覚悟が。


……八代はこの何倍も強い覚悟を持って来てくれたはずだ。傷つく覚悟、終わらせる覚悟。




だからきちんと、最後は俺の口から。



「……最初に伝えたいのは」

「うん」

「八代のことは真剣に考えてたし、伝えた気持ちにひとつも嘘はなかった。好きになれたらいいのにって……本気でそう思ってた」

「……うん」

「……でも、バレンタインの日。先生に呼ばれて、ふたりきりになって。最初はなんとも思ってなかったんだ。早く八代のところに戻らなきゃって、それしか考えてなくて」



ほんの少し上がった口角。だけど、瞳は次第に潤んでいくから、逸らしてしまいそうになる。だけど、それじゃだめだ。

ちゃんと目を見て、伝えるんだ。



「だけど、部屋を出る時……先生のことが気になって。あのひと、最後兄貴と別れた時と同じ顔してたから。それで……戻った」



こちらを見つめる瞳から、滴がこぼれていく。



「あのひとが泣きそうなのを見て。そばにいてあげなきゃって……そう、思ってしまって」



それでも伝える。逸らさないで、真っ直ぐに。