だけど。

私がどれだけ見ていたって、星谷くんの視線の先に映るのは私じゃない。



「私、このままずっと好きなんですかね」

「ん?」

「ずっと好きで、ずっと叶わなくて。そしたら一生ひとりですね、私」



高校1年生。未来のことなんて、当然わかるはずもなく。きっと一生なんて大袈裟だ。

でも、今のことならわかる。



星谷くんの矢印は、私には向かない。

私の矢印は、星谷くんにしか向かない。



これが変わるのかどうかはわからないけれど。少なくとも私は今、星谷くんと先生を心の底から応援できないくらいに、彼が好きだ。

先生と結ばれることが星谷くんの幸せなのだと、わかっているけれど。それでも、その幸せを願えない。



矢印が私に向かなくなって、好きなのだ。

彼の気持ちが、欲しい。先生が受け取らないなら、私がもらいたい。


だけど、それは叶わない。叶わないけど、この気持ちを持ち続けることを、まだやめたくない。



「ひおはそれでいいの?」

「え?」

「叶わない恋、ずっと続けるの」



いいのかなんてそんなの、わからないよ先輩。だけどわからないから、真っ直ぐ好きでいることしかできないんだ。



「今は、いいんです。好きなひとがいるだけで楽しいですもん。……まぁ、もしかしたらいつか寂しくなるかもですけど」



なるべく明るく言ってみたけれど、きっと先輩は気がついている。本当はとっくに、寂しいってこと。

楽しいのは本当だ。でもその裏側には、いつも寂しいの感情がくっついている。


だからなのか、「ひお」と。甘すぎない、だけど一段とやさしい声で名前を呼んでくれた。



「なーに、先輩」

「ひおがずっとひとりだったら、俺がもらってあげる」

「はは、なんですかそれ」

「どう?」

「先輩、それはやさしすぎます」



「そうかな」なんて先輩が言うから、「そもそもそれまで先輩がひとりなわけないですよ」と返した。当然の答えだと思った。


やさしい先輩には、やさしいひとが現れればいいと。そう思いながら月を見上げていたから。


先輩がその時どんな顔をしていたのか、私は知らなかった。