先輩にとっては大事な後輩である八代を泣かせて、傷つけた。なのに上辺だけだとしても、俺のことも気遣っているような言葉をくれる。
「頼んだよ、星谷くん」
そんな先輩に、このまま無言を貫くわけにはいかなかった。
「…………には」
「ん?」
「……八代には、本当に悪いことをしたと思ってます。でも、八代に伝えてきた気持ちに嘘はなくて……」
目を合わせるのが怖い。やさしいひとの、やさしくない顔が視界に映る。きっと八代は、先輩のこんな顔なんて見たことないんだろうな。
「うん、すこく嬉しそうにしてた。クリスマスとか、特にその辺」
「ごめんなさい……」
「それ、俺に言われてもね」
「……はい」
「ひおとちゃんと話してあげて。で、ひおがいちばん傷つかないような言葉選んでやってよ」
「……はい」
それに、この数分でよくわかった。
このひとのやさしさは、全部。
「ごめんごめん。星谷くんもしんどいのに。いじめたいわけじゃないんだ」
「……わかってます。先輩はやさしいひとだって八代が言ってましたけど、そんな感じしますもん」
「ほんと? まぁ、そう思ってくれるようにそうしてるからね」
「え……」
「あ、ひおには内緒ね」
きっと全部、八代のためにあるものなのだろう。
八代のことを話せば、さっきまで冷たかった先輩の瞳に多少の温度が宿った。
正直ほっとした。八代のそばに、こんなに頼もしいひとがいてくれているのがわかって。
八代のことを、ちゃんと考えて、想ってくれているひとがいて。
「……あの」
「ん?」
「……俺がこんなこと言うのは、本当にどうかと思うんですけど」
「うん」
「八代のこと……よろしくお願いします」
俺はもう、隣にはいられないから。八代の笑顔を奪ってしまうから。
誰かにそうやって託すしかなかった。
「はは、何それ。言われなくてもそうするよ」
結局俺だって、大希と同じだ。
誰かの大切なひとのことを、この手で傷つけたのだと。先輩と話したことで、そう深く実感した。


