願うなら、きみが






「そっか、休みか」



温度の低い目で見下ろされる。だけど本当に心当たりがない。ということは、おそらく八代の知り合いなのだと思う。



「あの……八代とはどういう……」

「あぁ、バイトが一緒なんだよね」



ここでようやく、点と点が繋がった。クリスマスの日、八代がしてくれたバイト先の話。同じ学校の先輩って……。



「あ……」

「あれ、もしかして何か聞いてた?」

「はい……えっと……」

「あ、そうだ、ごめんね。普通名乗るのが先だね」



あの時名前も性別も聞いていなかったけれど、てっきり女のひとだと思っていた。そうか、このひとが八代の言っていた先輩なんだ。


となれば、色々とわかってくる。



「藤原 由真です」

「……星谷 瑞希です」

「じゃあ、星谷くんさ」

「、はい」



改めて名前を呼ばれた瞬間、緊張感が走った。八代の言い方からして、ふたりの距離は結構近いのだと思う。だから、これから向けられる言葉の予想はなんとなくついた。

手のひらをぎゅっと握って、その言葉が落ちてくるのを待つ。



「もう、あの子のこと泣かせないでやってよ」



それは胸のど真ん中へ、一直線に沈んでいく。

口調はやさしいのに、顔は全く笑っていなくて。綺麗な顔立ちも相まって、怖いとすら感じる。

だけどこれは全部、俺が招いたこと。このひとのこれは、全て正しい。

だって俺が八代へ知らぬ間につけていた傷を、きっと先輩はずっと見てきたのだろうから。



「なんて、急にごめんね。感じ悪いね。でも、もうそういうの見てらんないから」

「……」

「星谷くんにも事情があるとは思うんだけどさ」



返す言葉が何もなくて、先輩を前にして黙り込んでしまう。

それに、八代の言っていた通りだ。先輩はすごく、やさしいひとなのだと思う。