願うなら、きみが






好きって気持ちは理性ではどうにもならないとかよく言うけれど、それは本当なのだと思ってしまった。どちらを選ぶべきで、どちらを大切にしなければならないのか、頭ではわかっているのに、こころは違う方へ向かっていった。




ごめん……ごめん、八代。

行けない、と連絡をした。八代の声は電話越しでもわかるくらい、最後は震えていた。

それは現在進行形で彼女を傷つけているのだと、そう実感させられて胸がぎゅっと痛かった。


それでも戻ろうとは思えなかった俺は、もう八代のそばにいる資格などないのだろう。






──『……もう会えないって言われて』

『うん』

『……連絡先もブロックされたかも』

『……そっか』



あの後、時間差で小春ちゃんの家へ行った。ひとりにさせたくなかった。学校よりファミレスよりカラオケより、人目につかないいちばん安全な場所だと思ったからで、決してやましい気持ちがあったわけではない。

いけないこと。だけどこれは今日だけ。

密室にふたり。そこでは先生と生徒ではなかったけれど、女と男でもなかった。

小春ちゃんと瑞希くん。結局、そうにしかなれないのだ。




可愛らしい部屋で、ただ小春ちゃんの話を聞いていた。



『これ、昨日の話だよ? 偉くない? 今日ちゃんと仕事してさ』

『うん、偉い』

『……はは、かっこ悪いよね。ごめんね、いつも弱いところ見せて』

『小春ちゃんは、弱くていいよ』

『なにそれ、』

『それでどうしようもなくなって、俺の前で泣いてよ』

『瑞希くん……』

『ごめん……俺、諦め悪いみたい』

『……ごめん、なさい…………ほんとだ、ずるいね、私』

『ううん、大丈夫。ごめんね』



振り向きもしない背中を、追いかけるというよりかは見つめているような、そんな感覚で。

もう、少しでも振り向いてくれますようになんて、そんなことは願わないから。


気の済むまでどうか、あなたのことを想わせてほしい。