この数ヶ月、普通になれたと思っていた。小春ちゃんへの気持ちは、少しずつ無くなっていると思っていた。


なのに、どうして今、このタイミングで。


決定的なことなど何もされていない。だけど、ここに残った。教室には戻らないで、自分の意思でここにいる。


それが答えだ。気持ちが無いのなら、きっと小春ちゃんをひとりにしてでも戻ったはずだ。

誰のせいでもない、自分で選んだのだ。おかしいよ、本当。



自分が嫌になる。でも、どうしようもない。だってこの足はやっぱり、ここから動こうとしないのだから。



『……ずるいよ、小春ちゃん』

『え……?』

『ううん、ごめん。なんでもない』



それから八代にメッセージを送った。30分前と気持ちが変わってしまったこと、気づかれたくなくて肝心なことは何も伝えないまま送った。どうせきちんと話さなきゃならないのに、ただそれを先延ばしにしただけだった。


でも、だって、言いたくない、悲しませたくない。八代を傷つけるのは、これで何度目なのだろう。考えてもわからない。

ゆっくりゆっくり、気持ちは固めていたはずだった。それなのに、こんなに簡単に崩れてしまうものなのか。弱くて、最低で、俺の方がよっぽどずるいじゃないか。


そうは思っても、目の前のひとに全て掻き消される。すぐに消えて無くなる気持ちではなかった。そりゃそうだ。だって、ずっと好きだったんだから。



『……小春ちゃん、何があったの』

『え……』

『吐き出して、俺に』

『でも、用事は……? 大丈夫なの……?』

『……大丈夫じゃない、けど。目の前で、大事なひとが泣きそうだから』

『……っ、』

『だから、ここにいる』

『、み、ずきく……』



あの日と同じように、涙をこぼした小春ちゃんを不格好に抱きしめた。


俺はずっとこのひとに触れたくて、このひとを泣かせるやつのことを許せなくて。


これを恋とか愛と呼ばないのであれば、一体なんて名前が付くのだろう。




もう戻れない。

それでもいいと思ってしまったのだから、諦めるしかない。


これからもずっと続くと思っていた、八代と一緒に過ごす日々のことを。