『帰りのホームルームが終わったら、図書室来てくれる?』



今思えば、それを断らなかった時点で、きっと未来は決まっていたのだろう。






『なんですか? 手伝ってほしいことって』

『ありがとう、来てくれて』

『すぐ終わるって言ってたから』

『うん、ごめんね。こっち』



ホームルームが終わって急いで来たからか、今日当番の図書委員はまだいない。『手伝ってほしいことがあって……すぐ終わるから、お願い……!』と、昼休み小春ちゃんにそう頼まれた。

すぐに終わるなら、と。八代との約束があったけれど、断らなかった。10分もあれば終わるだろうと、そう思っていたから。


手招きされて入ったのは、図書準備室。ここは基本的に、司書の先生と図書委員だけが入ることができる場所だ。

この部屋には実はもうひとつ扉があって、その向こうはちょっとした倉庫になっている。小春ちゃんはその倉庫の中に俺を招いた。


『あれなんだけど』と彼女が指を差した先には、段ボールが。どうやら、ラックのいちばん上のそれを下ろしてほしいらしい。



『こんなの、当番のひとにやってもらえばいいじゃないですか』

『星谷くんの方が背高いから』

『何それ』

『ふふ、お願いします』



小春ちゃんと普通に会話ができていることに安堵する。だけど、会話を楽しんでいる場合ではない。

八代を待たせている。さっさと終わらせて、教室に戻らなければ、と。頼まれた通りに段ボールを床へ置いた。



『はい。じゃあ行きますね』

『あっ……待って』

『なに?』

『……あっちの段ボールもいい?』

『あっちも? いいですけど』

『それと、』

『あの。俺、この後予定があって』

『そ、うなんだ……ごめん……! じゃあそれだけお願いしてもいい?』



絶対に10分で戻る、と。そう決めていたはずだった。