「……ひおはそれでいいの?」
「そういうわけじゃないですけど。でも、さすがにしつこすぎるし、望みも無いし。だから、ちゃんと話して、ちゃんと終わらせます」
好きだった。今も、好きだ。
だけどわかる。これ以上は、もうだめだと。私はこれからもずっと、彼の特別にはなれないのだと。
人生全てのことにタイミングがあるとするのなら、そのタイミングは、きっと今だ。
べつに、傷ついたってよかった。でもそれは、こころのどこかで〝いつかは〟なんて期待をしていたからで。まだチャンスはあるなんて思っていたからで。
だけどさっきの電話で、はっきりとわかった。もう可能性も何も無いのだと。
だから――
「ひおがそう決めたなら、応援する」
「……はい、ありがとうございます」
「ちゃんと、後悔しないように話しておいで」
「あーあ……! 今日の途中までは、絶対いい感じだったんです。だってそういう空気だったし。恥ずかしいですけど、上手くいくって思ってました」
「……うん」
「でも、何かあったんでしょうね。はは、惜しかったなぁ」
次に会って話をする時。
私は、星谷 瑞希くんを諦める。
本当はものすごく苦しい。悲しいし、怒りたい。
でも、たぶんこうするしかないのだ。
「……もったいないね、彼」
「え?」
「ひおを選ばなかったこと、後悔するんじゃない?」
「そうで……いや、やっぱり後悔してほしくないです、だめです」
「ふ、やさしいね、ひおは」
「たしかに……! 後悔してほしくないってことは、そのひとと上手くいってほしいってことでもありますもんね」
「そうなの?」
「そう、だといいな。これが好きなひとの幸せを願うってことなんだとしたら、私成長したかもです」
「偉いじゃん、ひお」
「……なーんて。もったいないって先輩がそう言ってくれただけで元気出ます。慰めてくれてありがとうございます」
「……本心なのに」
「え? なんですか? 聞こえな、」
「んーん、なんでもない」
そう言って先輩が空を見上げたから、それ以上聞くことはしないで私も同じようにそうした。
今日が終わらなければ、この恋を終わらせなくて済むのに、と。星も月も見えない夜空に、そんなことをつい願ってしまいそうになった私は、きっと可哀想でどうしようもない。
上を向いて黙っていれば、止まったはずの涙がまたこぼれてきて。先輩の隣で今度は静かに泣いた。それでも先輩は気づいていたのだろう。私が泣き止むまでずっと、やさしく背中をさすってくれていた。


