願うなら、きみが






「ほんとにいいんですか?」と隣を向けば、「うん、欲しい」とそう言ってくれて。

たしかに、私になんかよりも先輩に食べてもらえた方が、このマフィンも嬉しいだろう、と。今までたくさん食べさせてしまってごめんなさいとも思いつつ、お言葉に甘えて先輩の手のひらの上に乗せた。


「ありがとう」と受け取ってくれた先輩はすぐに食べるわけではなく、くるりと回してみたりしてそれをじっくりと見ていた。

それから「いただきます」と、ひと口齧る。

綺麗な横顔を、ドキドキしながら見つめる。自分の作ったものを目の前で食べられるのは、何回目だろうと緊張してしまうものだ。



「……どうですか?」

「ん、美味しい」

「ほんと……?」

「ほんと」

「はぁ〜よかった……! 先輩がそう言ってくれるなら間違いないですね」



「うん、美味しい」と、先輩は残りをぱくぱくと食べ進めていく。それを見てほっとした。きっとマフィンも喜んでいることだろう。

安心した気持ちでもぐもぐしている先輩を眺めていれば、あっという間にマフィンは全部先輩のお腹の中へ。なんだかすごく、報われた気になった。



「ごちそうさまでした。練習の時よりも上手くできたんじゃない?」

「ほんとですか? まぁ、愛情的なものたくさん込めたのでね……! なんて、はは……」

「なるほどね。ひおの愛情入ってたんだ。そりゃ美味しいわけだ」



嬉しい言葉ばかりをくれる先輩には、毎回ありがとうの気持ちでいっぱいになる。


だからこそ、伝えなければならない。何も聞かないでくれた先輩へ、きちんと私の口から。



「……先輩」

「ん?」

「今日、ですね、結構ぐさぐさ刺されちゃったので、聞いてくれますか?」



今日あった出来事を、全部。



「うん、聞くよ」



それからゆっくり、先輩に話した。口にすると現実味が増して、ちょっと苦しくなった。

その上先輩の相槌が、頭を撫でてくれているみたいにやっぱりやさしかったから。さっき散々泣いたにも関わらず、話しながらちょっとだけまた泣いてしまった。