「……美味しい」
きっとこれなら、星谷くんも美味しいと思ってくれただろうな、と。そんなもしもを考えながらひと口、もうひと口と食べていく。
さっきまで何も考えたくなかった頭の中に、星谷くんがぽんぽんと浮かんできて困った。でも、考えないなんてことはできない。いつかはちゃんと、この現実と向き合わないといけないのだ。
とは言っても、星谷くんの口から全てを聞いたわけではないから、本当のところはわからないのだけれど。でも、たぶん私の考えは当たっていると思う。
星谷くんは、やっぱり先生のことが好き。たったそれだけのこと。
本当は少しも当たってほしくない。外れろ、と思う。でも、きっとそうだ。
そんな事実、今までと何も変わらないのに。こんなに苦しいのは、こんなに悲しいのは、私が星谷くんに期待をしてしまっていたからだ。もしかしたら、彼の気持ちが変わったかもしれないって。私に、矢印が向いたかもしれないって。
実際そうだったと思う。自惚れではなく、本当にちょっとずつ私を女の子として見てくれていたと思う。話があるって言ったのも、私にとって良い話だったと思う。
『ごめん、すぐ戻るから待ってて』
今日の、あの時までは。
だってそうでなければ、星谷くんはもっと早い段階でバレンタインを受け取ることを拒否していただろうし、私に笑顔なんて向けていなかっただろう。
タイミング悪すぎるよ、先生。なんて、どんなルートを辿っても、結果は同じだったと思う。
そんな考察を繰り広げながら、ふたつのうちひとつを食べ終わった。
誰かのために作ったものを、最後は自分で食べるなんて、虚しいよなぁ、と。そう思いながら、もうひとつに手を伸ばした時だった。
ジャリ、と砂の擦れる音がしたのは。
「──ひお?」


