願うなら、きみが






その後、どうやって通話を終えたのかはよく覚えていない。


ただ痛くて、くるしかった。

何もしたくない、考えたくない。だけどじっとしていたらもっと悲しくなりそうで、できるだけ暖かい格好をして外に出た。


リビングにいたお母さんには、『バイト先に行ってくる』と声をかけたような気がする。それすらも曖昧だ。


2月の夜はさすがに寒い。でも、まだ帰れない。横断歩道で立ち止まって、赤をぼーっと見つめる。私は今、どこへ向かっているのだろう。目的地を決めない散歩は好きだけれど、今はどうしてかそれが辛かった。


ごめんなさいお母さん、嘘をついて。でも今帰っても、きっと笑って顔を合わせられないから。もう少しだけこうさせてほしい。


左手にぶら下がった、マフィンの入った紙袋。星谷くんにあげるはずだったそれ。

もう行き場は無くて、でも捨ててしまうのはあまりにも悲しくて。


信号が青になって足を踏み出す。ゆっくりゆっくり、空気の冷たい夜道を歩いた。今の私には、街灯の明かりだけがなんだかやさしくて心強かった。





──「…………あ」



どれくらい歩いただろう。しばらく歩いて、ふと顔を上げる。そうすれば、思わず笑ってしまいそうになった。


だって視界に入ったのは、いつものあの公園だったから。もしかしたら私の足は、無意識に最初からこの場所へ向かっていたのかもしれないとすら思う。



「……はは、今日も誰もいない」



これ以上歩いても仕方がないので、とりあえず中へ入ることにした。

相変わらず、誰もいない公園。ひとりでここへ来たのは初めてだった。

今日はブランコではなくベンチに座る。それから膝の上に乗せた紙袋の中のマフィンへ目をやった。


そこへ大きなため息が落ちていく。私の不幸せが降りかかったマフィンは、もう誰にもあげられなくなった。



となれば、自分で食べてしまう他ない。



自販機で温かいミルクティーを買って、丁寧に包んだラッピングを解いた。