願うなら、きみが






「……そっか」

『ごめん』



なんで、も、どうして、も。

言いたかった。でも聞かなかったのは、星谷くんにまだ希望を抱いていたからだ。まだギリギリ、大丈夫だって思っていたからだ。

だからとにかく願った。大丈夫だって、何度もこころの中で唱えた。


だけど──



「委員会? それとも、相談にでも乗ってるの? なら仕方ないね、うん」

『八代、』

「あ、じゃあ明日は? あのね、バレンタイン、渡したくて」

『……ごめん』

「え?」

『それ……受け取れない』

「……」

『八代』

「……」

『……八代、ごめん』



そんな願いは、すぐに打ち砕かれる。

それだけ、ではなかったのだ。そうなればもう、私のこころは耐えられなくなって、どんどん地面の方へ落っこちていく。


そんな中で頭に浮かぶのは、美里さんや由真先輩と一緒にマフィン作りの練習をした時のことだ。


せっかく付き合ってくれたのに。私のためにわざわざ時間を作ってくれたのに。

それなのに、その成果を届けることもできないなんて。受け取ってもくれないなんて。それはイコール、その時間は全部無駄だったってことで。


まるで高い所から一気に突き落とされたみたいな。その場所に行くまでの道のりは楽しくてワクワクしていたのに、到着したと思ったら景色すら見せてくれない。こんなの、あんまりだ。



「話があるって言ったのは……?」

『……それも、ごめん』



ひどい、くるしい。



「ごめんって何?」

『……ちゃんと話すから、ごめん』



かなしい、聞きたくない。



「ねぇ、星谷くん、」

『本当に、ごめん』



話があるって、待っててって。

星谷くん、そう言ったじゃん。



「……どうして?」



いちばん最適な言葉がわからなくて、それしか出てこなかった。でも、そんなこと聞かなくたってわかるよ。声を聞けばわかる。わかったよ。



『……ごめん』



──星谷くんの矢印は、やっぱり私には向かないんだって。