星谷くんからの連絡。しかも、電話だ。
呼吸を整えて、通話ボタンを押す。
「も、もしもし」
『……八代……ごめん』
正直、浮かれていた。だけど私のこころの中とは、まるで真逆のような。向こう側から聞こえたのは、申し訳なさそうな声。この声を聞いた瞬間、たったの今まで感じていたドキドキは薄れていって、私の気持ちはさっきと逆転した。
心配、よりも不安。
それでも気のせいだと思いたくて、普通を貫こうとした。
「あ、ううん、大丈夫?」
『……』
「もしかして、なんか用事? 時間なら気にしなくて大丈夫だよ。なんなら私学校まで戻ろう、」
『ごめん』
「っ、え……?」
だけど不安はすぐに確信に変わって、別のドキドキに襲われる。その後ろに続く言葉を、簡単に想像できてしまったから。
神経が耳に集中する。次の言葉までがとても長く感じて、だんだんと息が苦しくなる。
『……今日、行けない』
──あぁ、そっか、やっぱりな。
耳に入ってきたそれは、まるで心臓を貫くナイフだ。それでも浅いところで止まったのは、きちんと予感できていたからだろう。
「え……」
『本当にごめん、八代』
「えっと……待って、なんかあった……?」
『……』
「星谷くん……?」
『……うん』
「星谷くん、今……」
今、何をしているの?
行けない理由。想像できることはたったのひとつで、そしてきっとそれは当たっているのだと思う。
だからこそ、私の口からは言いたくなかった。
だって、星谷くんは、今。
『…………今、先生といる』
告げられた真実は、やっぱり、と思うそれ。
その瞬間、じわりと胸の辺りが熱くなる。今日、会えないんだって、もちろんそれはものすごく悲しい。
だけど、それだけだったらまだ耐えられた。だから、それだけだったらいいのに、と。
そう、願うしかなかった。


