願うなら、きみが






──「ごめん、すぐ戻るから待ってて」



帰りのホームルームが終わると星谷くんが私の席へやってきて、申し訳なさそうにそう言った。どうやら用事があるらしい。「わかった、待ってる」と、星谷くんの背中を見送ってから、ゆっくりと教室を見渡す。

バレンタインの教室の空気はいつもとどこか違くて、みんなソワソワしている気がする。あーちゃんはもちろん仁先輩の教室へすぐに向かっていった。


友チョコを渡し合ったり、別のクラスの子が男子を呼びに来たり。色で例えるのなら、この教室は今パステルピンクに染まっている。

いいなぁ、この感じ。なんて、眺めていた。


それから10分、20分、教室からはひとがどんどん減っていく。だけどすぐに戻ってくると思っていた星谷くんは、まだ戻ってこなくて。

何かあったのかな、どうしたのだろう、と少し心配に思っていれば、ちょうどスマホにメッセージが届いた。


【ごめん、先に帰ってて。後で八代の家の近くまで行く】

やっぱり、何かあったらしい。なんだろう、図書委員の仕事かな。それなら仕方ないよね。

【了解!連絡待ってます】と返信をして、言われた通り先に家に帰ることにした。


机の横にぶら下がったままの星谷くんのリュックを横目に、教室を出る。ドキドキを抱えたままのいつもの帰り道は、やっぱりちょっとピンクに見えた。


帰ってすぐに自分の部屋へ。制服を脱いでベッドに腰を下ろす。だけど落ち着かなくて、じっとしていられなくて、ラッピングを何度も確認したりして。

それでも10分、20分、30分。スマホが震える気配は一向にない。このまま連絡が来ないかもしれないという不安より、大丈夫かな、という心配の方が大きかった。


それからぼーっと部屋の時計を眺めていると、視界の端っこでスマホの画面が光ったのが見えて。


それは、帰ってから2時間後のことだった。