願うなら、きみが






「ついに今日だね陽織」

「うん……」



そしてバレンタイン当日はすぐにやってきた。朝下駄箱であーちゃんに会ってすぐ、廊下の端っこに集合した。

正直、昨日の夜から緊張してよく眠れなかった。だからいちばん最初にあーちゃんに会えてほっとしている。現にあーちゃんは、私のこころを見透かすみたいに、「大丈夫大丈夫」と何度も言ってくれた。



「頑張って練習したんでしょ?」

「……うん」

「それにほら、〝話ある〟って言われたって」

「そう……たぶん、だけど……悪い話じゃないと思う」

「たぶんじゃないよ、絶対そうだよ! だってこんなバレンタインの日にわざわざそんなこと言ってくるなんて……!」

「ね……そうだといいな」



星谷くんの顔が浮かぶ。話の内容はわからないけれど、悲しい話ではないと、そう思う。だってずっと見てきたから、星谷くんのこと。


大丈夫、大丈夫。今日くらい、自信を持とう。



「あ、そうだ。はい、あーちゃん。ハッピーバレンタイン」

「わっ、ありがと〜! 私も、はいっ。ハッピーバレンタイン」

「ありがと〜っ、食べていい?」

「うん、私も食べたい!」



あーちゃんには綺麗にできたやつを選んだのだけれど、味はどうだろう。渡したのは、昨日家でひとりで作ったものだ。星谷くんにあげるものも同じだから、非常にドキドキである。

もちろん今までずっと練習してきたし、最後の練習の日には美里さんに合格をもらったので多少の自信はあるけれど、それでも心配だ。

中身を開けてすぐ、あーちゃんがマフィンを齧った。その反応を見るまで、あーちゃんからのバレンタインは食べられない。



「ど……どう?」

「ん! 美味しい〜!」

「ほんと……?」

「ほんと! これでもうお菓子作り苦手とは言えないねぇ?」

「はぁ〜、よかった〜……」



その言葉に一気に安心したのと、朝ご飯を抜いたせいかお腹が空いてきた。あーちゃんがそう言ってくれるなら、きっと大丈夫だろう。落ち着いた気持ちで、あーちゃんからもらったブラウニーを頬張った。



「あーちゃん、美味しすぎて天才?」

「嬉し〜っ! 頑張ったの!」



勝負は放課後。その時にはきっと今よりも笑えていると、そう信じるしかない。