先輩はそんな私を見て、『泣かない泣かない』って、慌てるでも困るでもなく笑った。

先輩の声がやさしく鼓膜を震わすから、なんだかだんだんと落ち着いたのを覚えている。


『八代さん、この後予定ある?』

『、ない……ですけど』

『じゃあ着替えたら、一緒に外歩かない?』

『え、』

『ジュース奢ってあげるから』


だけど鼻をすすっていると、急にそんなことを言われて焦った。どうして、と思った。歩くってなに、だって先輩、早く帰りたいでしょって。びっくりして涙は呆気なく引っ込んでしまった。

それに先輩は顔がいいので、もしかしたらいつもこうやって女の子を引っかけているのかもしれないと、そんなことすら考えてしまって。いや、私相手にそれはないか、とすぐに冷静になったのだけれど。

バイトの先輩でもあり学校の先輩でもある由真先輩のそれを断るのはなんだか気が引けて、結局『歩き……ます』と返事をした。


本当によくわからなくて、最初は緊張しかしなかった。


だけど、すぐにわかった。


お店を出てふたりで歩き始めれば、先輩は自分もバイトを始めた頃に同じような失敗をしたことがあると教えてくれて。『大丈夫だよ』、『ちゃんと反省して偉いね』って、目を見てそう言ってくれて。

あぁ、先輩は私のことを励まそうとしてくれているんだって、ちゃんとわかった。


その時、『座って喋ろ』って連れてきてくれたのがこの公園で。それに先輩は本当にジュースを買ってくれた。春のいい匂いに包まれながら、ブランコに座ってふたりでオレンジジュースを飲んだのがもう懐かしい。


甘酸っぱいオレンジの味は、今でもよーく思い出せる。



この日先輩と話したことがきっかけで、その後のバイトでも普通に話すようになって。

しかも次に会った時には〝ひお〟って呼んできて。『仲良くなったんだしいいじゃん』って。だからつられて私も〝由真先輩〟って名前で呼ぶようになった。


それからは先輩の言う通り、本当に仲良くなった、と思う。