願うなら、きみが


*.







「ごめんなさい先輩……」

「でも味は美味しいよ」

「うう……ひとりだと完璧にはいかないです」

「頑張れ頑張れ。まだ時間あるし」



何回目かの水曜日。美里さんは今日お店を開けてくれた後、用事を済ませてくるからと出かけてしまって、今は先輩とふたりである。

出ていく前の美里さんに『そろそろひとりでやってみたら?』と言われたので、練習を開始してから初めてひとりで作ってみたのだけれど、まぁ見事に焦がしてしまった。


焦げたマフィンたちを見下ろすのはなんとも切ない。でも、そんなに落ち込むことはなかった。だって昨日、私は魔法の言葉をもらったから。


マフィンをひと口齧る。焦げた部分は苦いけれど、すぐに甘さで口の中が満たされた。先輩が言ってくれた通り味は美味しい。

星谷くんにも美味しいって思ってもらえるように頑張らなきゃなぁ……。



「ひお、もしかしてご機嫌?」

「えっ、なんでですか」

「焦がしたのに落ち込んでないから」



星谷くんのことを思い浮かべてすぐ。どうやら先輩にはなんでもお見通しらしい。



「やっぱり顔に出ちゃってましたかね」

「なに、いいことあった?」

「へへ、あのですね」

「うん」



もちろん、先輩には話すつもりだった。というか、最初から聞いてほしくて堪らなかった。

ここ最近、先輩には悲しい話をしていない気がする。



「バレンタインの日に時間が欲しいって伝えたんです。そしたら、〝俺も話がある〟って言われて」

「……へぇ」

「これってつまり、どういう意味だと思います?」



その時のことを思い出して、つい頬が緩む。でも本当のところはまだわからない。

だから先輩にそう聞いた。少しでも、大丈夫だって確証が欲しかったから。



「その顔を見るに、悪い話じゃなさそうだね」

「やっぱりそう思います?」

「わかんないけど、ひおが嬉しそうな顔してるから」

「だってだって、笑ってたんですもん、彼。そりゃあこんなふうに期待してしまいますよ!」

「そっか。なら、きっと大丈夫だよ」



あぁ、やっぱり。先輩はいつも私の欲しい言葉をくれる。