願うなら、きみが






それから毎週水曜日、お店のキッチンを借りて練習をさせてもらった。

美里さんのおかげで手際はだいぶ良くなったと思うし、由真先輩も毎回美味しいと褒めてくれるから、ちょっぴり自信がついた。


あとはひとりでもちゃんと作れるようになって、それからバレンタインの日に時間を少しもらえるか、星谷くんにお願いをするだけだ。




ある日の放課後、下駄箱に星谷くんの姿を見つけてすぐに駆け寄る。周りにひとはいない。だから、今だと思った。



「あの、星谷くん……!」

「、八代か。びっくりした」



いきなり大きな声で呼んでしまったからだろう、星谷くんの肩をびく、と震わせてしまった。そんな彼の前まで行って見上げれば、手に持っていた靴は下駄箱へ戻っていく。



「えっと、帰っちゃうと思って……」

「なんか用事?」

「うん……あの、相談があるんだけど……」

「相談?」



こうして改まると緊張する。でも、ちゃんと言わないと。せっかく美里さんたちが手を貸してくれているんだもの。



「……2月14日、なんだけど」

「うん」

「ちょっとでいいから、時間をくれませんか……?」



こんなストレートすぎる誘い、きっと星谷くんも察しただろう。だってバレンタインってことは、つまりはそういうことだから。こんなの、告白するのと同義である。

そんなのはわかりきっていたことだけれど、いざ口に出すと恥ずかしさが増す。手で顔を覆いたくなってしまう。

でも、不安はすぐに和らいだ。それは星谷くんの目がやさしく細まったからで。



「うん、大丈夫」



それを聞いてほっとする。だけど代わりに今度はドキドキが襲ってきた。それはその後に、「俺も、」と予想していなかった言葉が続いたからだ。



「う、ん……?」

「俺も、話したいことある」

「……話したいこと?」

「うん」



ドキリ、と心臓が大きく音を立てる。

話したいこと。その言葉で想像するのは、大抵良くないことのように思う。



「だから、待ってて、八代」

「……うん、待ってる」



だけど、星谷くんの顔は笑っていた。それが私の全身を心臓にしてしまうのは、なんとも簡単なことだった。