願うなら、きみが






──「わ〜っ、美味しそう〜!!!」

「ねっ? 簡単にできたでしょ?」

「はいっ、早く食べたいです」



時間通りに焼いたそれらを取り出すと、立派なチョコレートマフィンに進化していた。

美味しそう。ひとの言う通りにやれば、私でもこんなに上手くできるなんて。だけどまだ気は抜けない。見た目は綺麗だけれど、問題は味である。



「由真、どう? 美味しそうでしょ?」

「美味しそう」

「よし、じゃあ食べてみましょうね〜っ」



美里さんが用意してくれた紅茶は、大変マフィンに合いそうだ。「どうぞ」と、先輩にひとつ差し出す。いや、でもこれだと先輩に毒味させているみたいだ。まずは私から食べるべきだ、と。そう思っている間に、マフィンは先輩の口の中へ。



「あ……」

「ん?」

「……どうですか、先輩」



こうなったらもう、ドキドキと答えを待つしかない。先輩のお腹を駄目にしたら、私は各方面へ謝罪をしなければならなくなる。

先輩の顔を見る限り、特に歪んだりはしていない。我慢してる? それとも──



「ん、美味しい」

「えっ」

「美味しいよ、ひお」

「ほ、ほんとですか……!?」

「ほんと。ひおも食べてごらん」



どうやら、成功したらしい。先輩からひとつマフィンを差し出されたので、ひと口齧ってみる。



「ほんとだ、美味しい……!」

「でしょ? ひお、すごいじゃん」

「美里さんが隣で教えてくれたからです!」

「うん、美味しい美味しい。これをひとりで作れるように、バレンタインまで特訓よ〜!」

「よ、よろしくお願いします……!」



そう、ひとりで作れるようにならなければ意味がない。そのためにこうして美里さんはお休みの日に付き合ってくれているのだ。本当に感謝しかない。


由真先輩だって、わざわざ放課後の時間を私にくれている。ここまでしてくれるなんて、まるで神様だ。


つくづく思う。私は周りのひとに恵まれているなぁって。


だからバレンタインは絶対に成功させなければならないのだと、改めて強く思った。