「火傷しないようにね」
「わかってますって」
「えー、心配」
チョコを溶かしている最中、隣に由真先輩がやって来て私の顔を覗き込んだ。
こんな時も子供扱い。むっとした顔を向ければ、「こら、よそ見しない」と、お兄ちゃんを発揮されてしまう。
「由真、ちゃんと陽織のこと見ててね?」
「任せてください」
「も〜美里さんまで〜!」
「どれどれ、どんな感じ……あ、いい感じに溶けたね。じゃあ次の工程いくよ〜」
先にふるっておいた粉類をそこに混ぜて、美里さんの指示通りに手を動かしていれば、湯煎したチョコレートがしっかりと生地になっていった。
すごい、お菓子作りしてる、って感じがする。
最後は均等に丁寧に、天板の上へ並べたカップに生地たちを流し込んで、いざオーブンの中へ。
美味しくなってくれますように、の気持ちを込めてスタートボタンを押した。
「ねぇ、陽織。どんな子にあげるのよっ」
「えっ」
「友チョコ、じゃないでしょ?」
「友チョコ……じゃないです」
「じゃあ、好きな子だ」
「……はい。へへ」
焼き上がるまでの待ち時間、突然繰り広げられるガールズトーク。美里さんがキラキラの瞳をこちらへ向けてきた。
きっと聞かれるだろうと思って、心構えはしていた。大人の美里さんからしたら高校生の恋愛なんて少しも面白くないかもしれないけれど、聞かれたらなんでも答えるつもりである。
「かわいいねぇ、陽織。もっと聞き……あ、ごめんなさい、由真には……」
「あ、由真先輩にはずっと相談乗ってもらってるので、聞かれても大丈夫です」
「あら、そうなの?」
「美里さん、俺がいちばんひおのこと知ってますよ」
「たしかに、間違いじゃないかもです」
「あら〜仲良しねぇ〜……で? どんな子なの?」
だけど思っていたよりもだいぶ、いや、かなり美里さんは興味津々に聞いてくれて。
オーブンの中をたまに覗きながら、星谷くんの話をした。好きなひとのことを話すのは照れくさいけれど、美里さんが「うんうん」とたくさん聞いてくれたので、恥ずかしいよりも嬉しかった。


