「えっ……なんで先輩が……?」

「ひおこそ。しかもなんか持ってるし」



店休日である水曜日。美里さんに言われた通りの材料を買ってお店に行くと、どうしてか中には由真先輩がいた。



「これはですね……その……」

「あっ、来た来たおふたりさんっ」



お互いに状況が上手く飲み込めないでいれば、厨房からひょこっとエプロン姿の美里さんが出てきた。しかもなぜだか満面の笑みである。



「美里さん、店の手伝いってなんですか? ひおも呼んだの?」

「えー? ふふ、由真は味見係よっ?」

「はい?」

「バレンタイン前に食べ過ぎて太ったら困るでしょ〜? だから由真、お手伝いしてっ?」

「……なるほど」



それだけでこの状況を察したらしい先輩は、ものすごく勘がいいと思う。一方の私は全然理解が追いつかず、先輩が説明をしてくれたおかげでようやく意味がわかった。


どうやら美里さんは〝手伝い〟という名目で、今日先輩をここへ呼んだらしい。そしてその手伝いとは、私がこれから作るバレンタインへ向けての試作品を食べる、というもので。

確かに美里さんと私のふたりでよりも由真先輩がいた方が、ひとり辺りの食べる量は減るけれど、理解をしたところで先輩にとっても申し訳ない気持ちがぷかぷかと浮かんでくる。



「す、すみません先輩……先輩にそんなことを頼むって知らなくて……」

「いや、美里さんが勝手にやったことだし。気にしなくていいよ」

「でも、」

「それにひおが作ったの食べられるんでしょ? 楽しみ」



嫌な顔ひとつせずにそんなことを言ってくれる先輩。やっぱり先輩は私にやさしい、というか甘い。



「先輩、ほんとにやさしすぎて心配になります。申し訳ないです……」

「なら美味しいの食べさせて?」

「……先輩のお腹壊さないように頑張ります」



とりあえず今日は、先輩に危害を加えないことを目標に。



「さぁ、準備して始めるよ〜!」

「はいっ」



先輩に見守られながら、美里さんとの特訓が始まった。