「お疲れー……って、なに、しぬの?」



ひおが休憩を終えてすぐ、入れ替わるように入ってきたのは3つ上の大学生の先輩、結香子(ゆかこ)さん。

目が合って早々にそんなことを言われた。つまり俺は、さっきのやり取りで相当なダメージを受けていたらしい。



「そう見えます?」

「見える見える。でもあれだね、そういう顔でも見ていられるわ。あー、イケメンってすごい」



結香子さんはさっきまでひおが座っていた席に腰かけると、じーっと俺を観察してそんなことを言ってきた。

なんだそれ。見せ物じゃないんですけど。



「しにそうな後輩に言うことですかね」

「まぁまぁ、怒んないでよ。あ、それ食べないならちょうだい?」



ひおにあげそびれた飴玉。あぁ、そうか。こういうのももうやめた方がいいんだよなぁ。


一気に虚しくなってきたので、口の中に放り込む。やさしいミルクの味が、今はどうも切ない。前から「あ」と残念そうな声が聞こえたので、べ、と舌を出してやった。



「自分の機嫌を自分でとってるだけです」

「は〜〜〜由真ってほんと、そういうところがかわいくなくてかわいい」

「なんですかそれ」

「なに、陽織と喧嘩でもした?」

「……」

「え、図星?」

「違います、全然」



たぶんだけれど、結香子さんには俺の気持ちがバレていると思う。でも1度もそれについて聞かれたことはなく、代わりにこうやってなんとなーくひおの話を振られるのだ。


だからって、認めるようなことはしない。だって成功確率は限りなく低い、というか0に近いんだもん。


そんな俺のつれない態度に何かを察したのであろう結香子さんは、それからはひおのことには一切触れず、昨日行ったらしい合コンでの面白エピソードを延々と話してくれた。



「――ま、男も女もこの地球上には星の数ほどいるからね〜」

「……ですね」



きっとそんなつもりはないのだろうけれど、俺に言ってくれているような気がして。

さっきまでほんのり甘かった口内は、いつの間にかその甘さを失くしていた。