あの日も同じように、やさしい顔をして。
落ち込みまくっていた私を、先輩はそうやって見つめていた。
「またにやにやしてる」
「先輩が初めてここに連れてきてくれた時のこと、思い出してました」
「あー、あの時のひお、かわいかったね」
「え、かわいい?」
「だってオーダーミスしたの、ずっと引きずってんだもん」
「な、そりゃそうですよ。ドリアとグラタン間違えたんですから」
「お客さんも笑って許してくれてたのに、すっごい落ち込んでてさ。まぁ、反省するのはいいことだけど」
「……ていうか、全然かわいい要素なくないですか?」
「かわいかったよ。この世の終わりみたいな顔してて」
面白がっている先輩に、頬を膨らませる。その〝かわいい〟は、どう考えても小さな子供に対してと同じ〝かわいい〟だ。
だけどあの日、私の心をかるーくしてくれたのは、紛れもなく目の前の先輩で。
あれは、バイトを始めたばかりの頃。と言っても、数ヶ月前の話なのだけれど。
初めてバイト中にミスをした。いや、それまでも間違えてしまうことは多々あったけれど、お客さん相手にそれをするのは初めてで。
大きな間違いをしてしまった、と。もやもやと情けない気持ちが広がって、バイト中なのに泣きそうになって。
それでもなんとか泣くのは我慢した。もやもやを抱えたまま、どうにか仕事はできた。
ずっとぐるぐると、頭の中で反省会を繰り返していた。
めちゃくちゃ慎重になった分、その後はミスすることなく業務をこなせたのだけれど、帰る時になっても落ち込んでいて。
そんな気持ちのまま着替えようとしていると、シフトが被っていた由真先輩もちょうど着替えるところで。
『お疲れさま、です』
『お疲れさまでーす』
『先、どうぞ』
『どーも……あ』
『はい……?』
『八代さん、泣くと思ってた。でも泣かなかったの、偉かったね』
そう言われた瞬間、なぜだか気が緩んでしまって。それはたぶん、先輩の顔がやさしかったからで。
その結果そんなに話したことのなかった先輩の前で、結局みっともなく泣いてしまったのだ。


