なのに、どうしてなのだろう。それ対して先輩からの返事はなかった。ここでまたおかしいなと、あれれ? と思う。

やっぱりいつもの先輩じゃないのだと、何かを間違ってしまったのかもしれないと気がついた瞬間、疑問が後悔に変わった。だって冗談的なあれなのに、いつもの先輩だったら〝うん、そうかも〟とか言ってくれそうなのに。

ウケを狙ったわけではないけれど、すべったみたいな? 恥ずかしいのと申し訳ないのがごちゃ混ぜになって込み上げてくる。


どうして先輩はこっちを見てくれないのだろう、と。そんな先輩に「……なんて」と、小さく呟くことしかできなくて。だけど今度はちゃんと届いたのか、「あー……ごめん」と、ようやく先輩の目が私を映す。



「先輩……?」

「想像しすぎてぼーっとしちゃってた」

「何をですか」

「ひおが幸せになる未来」

「完全にお父さんの気持ちってことですか?」

「そうそう、それ」

「……ならいいですけど」



本当かな? だとしたら、先輩から見た私は妹を越えて娘になっちゃったってことで。それぐらい仲良しだと思ってくれてるって思ってもいいかな、いいよね。


私の幸せを先輩が喜んでくれるのなら、彼氏ができたと紹介できるように頑張らなければ、とこころに決めてなんとなく空を見上げた。星はひとつしか見えないけれど、代わりにまん丸のお月さまが浮かんでいる。



「月が綺麗だね」

「あ、私も今言おうとしました。今日はいい日かもしれないです」

「そうかも」

「先輩といる時って、いっつも月綺麗な気がする」

「そう?」

「そうですよ。ほんときれ〜」



それからしばらくふたりで夜空を見上げていた。テストどうだったとか、冬休みは何するのとか、そんな他愛のない話が楽しくて、つい時間を忘れてしまったりして。



帰り道は寒かったけれど、こころの中はぽかぽかするような、そんな夜だった。