「よかった、ひおが笑ってて」
「ははー、たしかに私、大体ここで泣いたり落ち込んだりしてばっかりですもんね」
私の涙をいちばん見てきたのは、紛れもなく先輩だ。そんな先輩にはいつも悲しい報告ばかりしてきたけれど、今日は違くて。こうして言葉にすることで、やっぱりちょっとずつ前に進めているのだと実感できて嬉しい気持ちになる。
「先輩のおかげです。先輩がいっつもこうやって話聞いてくれるから。水族館行けたのも、先輩がお祈りしてくれたからで、」
「それは違うよ」
「え?」
「ひおが頑張ったからでしょ? 俺は何もしてない」
だけど、浮かれているのは私だけなのだろうか。横を向けば、さっき〝よかった〟って言ってくれた先輩の顔とは違う表情が見えた。
そりゃ、自分と同じ気持ちになってほしいなんて烏滸がましい話なのだけれど。でも、それにしてもなんだろう、寂しそうな顔っていうのかな。
それに先輩のそういう顔を見るのは、これが初めてではない。何度か見てきたそれらが、頭にぽんぽんと浮かんでくる。
「先輩……なんかありましたか?」
「え?」
「もしかして悩み事ですか? ごめんなさい、私の話ばっかり……」
今までずっと自分のことばかりで、そういえば先輩の弱音は全然聞いたことがなかった。
たまには私だって先輩の役に立ちたいわけで。きっと話を聞くことくらいしかできないけれど、それで先輩の気分が楽になるのならいくらだって話してほしい。
「えー、そう見える?」
「見えます」
「ほら、あれだよ。娘に彼氏ができた父親の気持ち的なやつ」
「えっ、それで寂しそうなんですか? 先輩、結構私のこと好きですね?」
だけど悩んでいるわけではないことが判明して、ちょっとだけふざけてみる。そんなことを言ってくれるのは、先輩が私のことを可愛がってくれている証拠だ。


