好きになれたらいいのに、なんて。どうしてそんなことを思うのだろう。
今まで俺の話をずっと聞いてくれて、誰よりも俺の気持ちを知ってくれていたのに、八代の想いを受け取ることのできなかった罪悪感からなのか。
こんな自分のことを好きになってくれるひとなんてこの先現れないだろうという、ただの焦りなのか。
いや、違う。単にもう傷つけたくないのだ。八代のことはやっぱり大事だと思っているから、これ以上は自分のせいで傷ついてほしくない。
同じ気持ちを返せなくて傷つけてしまうのなら、同じ気持ちを返せるようになればいい。
なんて、八代はこんな始まり方を嫌うだろうか。
透も言っていたけれど、いなくなったり喋れなくなったら嫌だと思える相手だ。
それにもし八代に彼氏ができて、もう図書室に来なくなってしまったとしたら、それも嫌だなぁと思う。これはきっと、自分の中で揺らがない気持ちだ。
それなのにこれが恋にならないのは、今までずっと小春ちゃんのことしか見ていなかったから?
だったら、変わるかもしれない。八代のことだけを見ていれば、何か変えられるかもしれない。
だって俺は振られたのだ。その好きだったひとに、きちんと。俺には小春ちゃんを幸せにすることができないと、痛いほど思い知った。兄貴じゃなきゃ、だめなんだってことも。
ならば今、自分のことを好きだと言ってくれているひとに目を向けたっていいじゃないか。
向けてくれた真っ直ぐな気持ちを、真っ直ぐに見つめてみたい。
決して過去の恋愛を忘れたいからではない。これは、俺がきちんと前を向くためで、八代と真剣に向き合うためで。
立ち止まったままでは、もういられないのだ。


