八代は、こんな俺のことを好きだと言ってくれた。1ヶ月前は、それに対して〝ごめん〟をあげることしかできなかったけれど、じゃあ今は?
『このひとの本、結構好き』
『そうだと思った』
『ふふ、さすが星谷くん』
応えられなかった。八代はそのことを誰よりもわかっていたはずなのに、それでも好きだと伝えてくれた女の子。その子が今、隣で笑っている。
ドキドキするわけではないけれど、一緒にいて楽しい。八代といると、とても心地がいい。
だけど小春ちゃんに対する気持ちとは全く違うから、これはきっと恋ではないのだということはわかる。
それなのに、どうしてだろう。最近ふとした時に思うのだ。
隣にいる八代のことを、好きになれたらいいのに、って。
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『透って、誰かのこと好きになったことある?』
『おいおい瑞希、俺のことなんだと思ってんだよー』
結局自分の中で答えなんて出せるはずもなく、クラスメイトの竹内 透に聞く始末だ。
『ありますとも。こう、胸がぎゅーんってなる感じな。最近全くないけど』
『……やっぱそうなるもん?』
『いや、俺恋愛マスターでもないからわかんねーけど。でも、友達だったのに急に好きかも!? とか全然あった』
その言葉にぴくり、つい肩が揺れてしまって焦った。だけど透は気がついていないようで、『うわ、懐かし〜』と頭の中で記憶を辿っている。
『……友達から好きになったの?』
『そ。いなくなったら嫌だなー、とか。喋れなくなったら嫌だなー、とか。ある時そう思ったら、そっからなんかだんだん意識しちゃったりしてさ』
『へぇ……』
友達から恋に。そういうパターンもあるのかと、正直ほっとした。恋愛経験の少ない俺は、そんなことすらわからない。
『ま、正解とかないし? てかなに、好きなひといんの!?』
『いや……俺ではないんだけど……相談、受けてて……』
『そーなん? じゃあ頑張れ〜ってその誰かに言っといて』
正解の無い問題。自分で手繰り寄せるしかない答え。
やっぱり、わからないよ。わからないけれど。
一緒にいたら、時間をかけたら、もっと知れたら。
いつかは八代のことを、好きになれるのだろうか。


