‎𖤐




「それは八代が、こんな俺に気持ちを真っ直ぐ伝えてくれたからだよ」



これは俺なりに、悩んで出した答えだ。






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『星谷くん、田中さん。お疲れさま』

『お疲れさまでーす』



図書当番の日。すぐに図書室を出ていった田中さんによって、小春ちゃんとふたりになった。



『先生、お疲れさまでした』

『気をつけて帰ってね』

『先生も』



ごく自然に、普通に交わされる会話。学校での小春ちゃんはどこまでも先生で、あんなことがあったのに、まるで何も無かったかのように接してくる。


最初はそれが結構しんどかった。でも結局、そうしてくれてよかったのだと思う。


小春ちゃんに想いを伝えてから、1ヶ月。最初はどうなるかと思っていたけれど、時間の流れというのはすごいもので、意外と気持ちは落ち着いていった。

初めて会った時から、ずっと好きだった。だからその気持ちはこれからも続いていくのだと思っていたから、自分でもちょっと驚いている。

抱えていた気持ちをようやく伝えられて、すっきりしたからなのだろうか。伝えていなければ今も、彼女に恋焦がれていたのだろうか。


小春ちゃんが自分の世界の中の中心にいたことが、まるで遠い昔のようだ。だけど、好きじゃなくなったのかと問われれば、それに頷けるかどうかはわからない。

たぶんきっと、できないのだろうと思う。



図書室を出ると、廊下の壁に寄りかかっている八代を見つけた。俺はそちらに向かって一直線に歩く。当番の日にこうして一緒に帰るのも、最近では当たり前のようになっていた。


小春ちゃんに告白をして1ヶ月。ということはつまり、八代に告白をされてからも1ヶ月程経ったということになる。



『お待たせ』

『お疲れさま〜』



ここ最近、思うのだ。

八代というひとを失いたくないくせに、気持ちには応えられなかった。だけどそれは、小春ちゃんのことしか頭になかったからで。


それがなくなりそうな今、俺は本当に八代の気持ちに少しも応えられないのだろうか、と。