「……」
「……」
私からの質問に瞬きを繰り返すだけで、なかなか口を開かない星谷くん。
これはどう考えても困らせてしまった。明確な答えなんて用意されているはずもないのに、つい調子に乗ってこんなことを。
今更〝面倒な女〟にはなりたくない。だからナシ、早急に取り消さなきゃ。
「あっ、いや、ごめん……今のはナシ、」
「最近さ、落ち着いてきたんだよね」
「え……?」
「あのひとのこと」
だけど星谷くんは、ちゃんと言葉をくれた。
「あのひとが普通にしてくれるから俺も普通でいようって思って……で、だんだんそれにも慣れてきて……」
「……うん」
「今は図書室で会っても、前みたいに話せてる」
「そっか……」
しかもそれは、私が密かに気にしていたことで。私と同じように、星谷くんも以前のような普通を取り戻しているらしい。
よかった。心配だったけれど、聞けていなかったから。
「それで……最近は気持ちの整理ができてきたっていうか、冷静になってきて……」
「うん……?」
だけどここから先は、想像もできない。一体その口から何を伝えられるのだろう。真っ直ぐ私を見つめる彼に、ただ相槌を打つことしかできなかった。
じい、と見つめ返す。そうすれば、星谷くんの目がほんの少し緩んだ。
なんで? それはどういう意味──
「……視野を広げてみるっていうのも、いいのかもしれないって思って」
「え……」
「そうしないといつまでも前に進めないし」
「えっと、それは……」
ふわりふわり、綿毛のようなものが胸の中を舞う。それらを聞いた瞬間、胸の奥の方に風が吹いた気がした。目の前の道が広がるような、光が差すような、そんな感覚が。
ねぇ、星谷くん。
星谷くん。
「前に八代も言ってたじゃん。他のひとに目を向けてみたら的なこと」
「つまり……」
「目を、向けてみようかなと」
「…………その〝他のひと〟の中に、私は……」
「うん、入ってるよ」
『それに、あのひとのことしか好きになれない、たぶん』
星谷くんのこころが変わっていく。甘い期待がじんわりと、胸の中へ広がっていった。


