駅からはそう遠くなくて、話していればあっという間に着いた。12月の水族館はクリスマスに向けて至るところに装飾がしてあって、余計にデートって感じがしてしまう。なんだかカップルも多い気がするし。
なんて、そんな浮かれた気持ちを一旦沈めて、まずはチケット売り場へ。券売機の前、星谷くんが操作してくれている間に財布からお金を取り出そうとしたところで、「誘ったの俺だからいいよ」と、星谷くんが2枚分のお金を投入口に入れた。
「えっ、でも、行きたいって言ったの私だし、」
「はい、八代の分」
差し出されたチケットにプリントされているシロクマの顔。写真撮りたいな……なんて思っている場合ではない。
「あの、せめて半分、」
「いいから、早く入ろ」
「でも……いいの?」
「うん」
「ありがとう……」
どうやら意見を変える気はなさそうなので、今回はありがたくお言葉に甘えさせてもらうことにした。
ねぇ、これで浮かれない女の子って、いる? というか星谷くん、ちょっと慣れてない?
こういう経験、あるのかな? 聞いたことないからわからないけど……うう、これはずるい。
ドキドキを抑えながら、星谷くんの背中を追いかける。自動ドアを抜ければここから先は、星谷くんの好きな世界が広がっている。
「あ、これ小説に出てきたやつだ」
「ほんとだ」
「かわいい〜写真撮ってもいい?」
「うん」
最初に目に入ったのは、入口に飾られているイルカとペンギンの像。小説の中で触れられていたので、記念にスマホのカメラに収める。これは絶対に見たかったやつだから嬉しい。
何枚か撮っていると、隣からもカシャッと音がした。反射的にそちらを見れば、星谷くんも写真を撮っていて、そんなことにもいちいち嬉しくなる。だって、同じ思い出を刻んでいるみたいだから。
日にちが経ってふとカメラロールを見た時、ここに私と一緒に来たことを思い出してくれたら嬉しいなって。
こういうささやかな期待なら、してもいいよね?


