仁のそういう話はよく聞いていたけれど、自分自身の話はしたことがない。なのに勘がいいのか、仁には見抜かれてしまった。
どうしてだろう。いや、適当に言っただけ?
どうしよ、と考えていれば、「由真ー仁ー」と、もう帰るだけであろうクラスメイトたちが近寄ってきた。
「これからカラオケ行くけど行く?」
「あー……」
その誘いに一瞬悩む。今行く、と答えれば、仁をあしらうことができるかもしれない、と。
だからよし行こう、と思って〝い〟の口にしようとしたところで、「俺らこれからデートだからごめーん」と、仁が両手を合わせて俺の分まで勝手に断った。
「そーなん? おっけー」
「また誘ってー」
「おい、仁、」
「あー、デート楽しみ」
「仲良いなお前ら。じゃーねー」
しかも、意図的に喋る隙まで奪われて。もう今更〝俺は行く〟と言う気はゼロになる。
カラオケに行くべくぞろぞろと教室を出ていくクラスメイトに、ひらりと手を振っている仁。むかついて横目で見ると、視線に気がついたのかこちらを向いてぺろりと舌を出す。
……完全にやられた。
思わず舌打ちをしてしまいそうになったが、教室の中だからとここではぐっと堪えた。
やっぱりもう、諦めるしかないようだ。
そうこうしているうちに、教室には俺と仁のふたりだけになった。そうすれば逃げ場はない。仁は俺の机に肘をついて、楽しそうに顔を見てくる。
「で? 誰が好きなの?」
「うざ」
「おっと、口が悪いねぇ」
「俺に構ってないで彼女と帰んなくていいの?」
「今日は陽織ちゃんと遊ぶんだって」
「……ふーん」
自然に相槌を打ったはずだった。だけど仁の口角が更に上がったから、よくないものを感じ取る。
「由真ってわかりやすくてかわいいね」
「はぁ?」
「愛未ちゃんが言ってたよ? 〝由真先輩、いっつもお菓子とかあげてて陽織のこと超甘やかしてる〟って」
「……」
「由真、そんなことしてんの? クラスの女子にはしないのに?」
「うるさい」
「好きな子には尽くすタイプなのな」
尽くしているつもりはない。だけどひおのことは、いつも甘やかしてやりたい気持ちになる。


