願うなら、きみが






──これは果たして、チャンスなのだろうか。







「ゆーまーくん」

「……」

「ゆーまっ」

「……」

「おい由真、無視すんなよ」

「、っ! びっくりした……」



放課後、帰宅する準備をしていれば、いつの間にか仁が隣にいた。仁の声に気がつかないほど、どうやら俺はぼーっとしていたらしい。肩を叩かれて、ようやくこいつの存在を認識できた。

「何?」と用件を問いながら、止まっていた手を再び動かす。すると「なぁ」と、前の奴の席に座った仁がこちらを向いて何やらにやにやとし始めた。

一瞬だけその顔を目で捉えて、すぐに視線を手元に落とす。


この顔をしている仁はたぶん、よからぬことを考えているだろうから。案の定「由真」と俺の名前を呼ぶ声は、明らかに語尾に音符が付いている。



「当ててあげようか」

「……何を」

「なんで今日そんなにぼーっとしてんのか」

「べつにしてないけど」

「してるじゃん」



今日、ってことは今だけじゃなかったようだ。仁に指摘されるってことは、きっと相当だったのだろう。


わかっている、自分でも。心当たりはありまくりだ。

だけどこいつには悟られないよう、平然を保つ。



「強いて言うなら眠いだけ」

「違うね。んー、〝今日のバイト休みたいなー〟とか?」

「今日バイトない」



心当たりについては、仁には今まで1度も話したことがない。だから俺が口を割らなければバレることはないし、そもそもこいつに当てられるわけ──



「なら、好きな子となんかあった」

「、っ」



なんて俺の考えは、どうやら甘かったらしい。

急に身を乗り出してきたかと思えば、耳元で正解を呟かれて、さすがにドキリとしてしまった。

それを仁は見逃さなかったようで、満面の笑みで「はい、当たりー」とピースサインを向けてくる。



「待って、なんでそうなんの」

「なんでって、それぐらいわかるっしょ」



一応誤魔化そうとはしたものの、当たり前かのようにそう言ってくる仁を見て、早くももうこれは諦めるしかないのかもしれないと悟った。